J ・DillaとNujabesの音楽性を継承する豪州の鬼才ビートメーカー/Ta-ku

2019.10.03

もはや説明不要で世界中のヘッズ、アーティストの両方から絶大な人気を誇るプロデューサーのJ ・DillaNujabes。今回はそんなトラックメーカー界レジェンド両方のセンスを引き継ぐオーストラリア出身のTa-ku(ター・クー)を紹介する。彼は現行ビートシーンを牽引するビートメーカー/プロデューサーで、フライングロータス主宰のブレインフィーダー系の流れも汲みつつ、90sヒップホップや往年のソウルサンプリングにエレクトロまで、多彩な音色を奏でる卓越したビートセンスを持ち、多数のリミックスやミックステープでのブレイクからBoiler Roomへの出演も果たしている。また、そのセンスは音楽だけに収まらず、フォトグラファーやクリエイティブディレクターとしての側面も持つ非常に才能溢れるアーティストだ。(アイキャッチ画像:Twitterより)

メジャーデビュー作となったJ ・Dillaへのトリビュート

Ta-kuサウンドの特徴は何と言っても恍惚とも言えるほど煌びやかなビートだ。洗練されたソウルサンプリング主体のビートに映画のサントラを感じさせるようなダイナミックで重厚なグルーヴを乗せている為、単なるヒップホップ系ビートメーカーにとどまらない、まさに’’ビートだけで聴ける’’アーティストである。2013年にドロップされた「50 days・for・Dilla」と題されたアルバムはアナログ盤が即完売、入手困難になりビート界で大きな注目を集めた名盤になった。実はこのアルバム、J ・Dillaへの敬愛を込めて、50日間毎日1つずつビートを作っていくというBandcampでの企画を「Vo.1」「Vol.2」の2枚に分けてまとめたアルバムなのだ。J ・Dillaのジャストから若干ズレているように聞こえる独特なビートプログラミングを踏襲しつつ、極上のメロディーと煌びやかなリフを散りばめたビートはハイ・クオリティで、トリビュートであるにも関わらずJ ・Dillaを受け継ぐ名作として高く評価されている。


珠玉のビート揃いの「Vol.1」で、筆者が特にオススメなのは11曲目と「Day 11」と16曲目「Day 16」。前者はヒップホップビートというよりはクラシック音楽を硬質な感触のビートで大胆にアレンジしたかのような映画的トラックで、例えるならドラマティックなオーケストラ音楽を聴いているような曲だ。サンプリング元は「Johnny Harris - Wichita Lineman」。1970年のポップインストの作品にソウルエッセンスとストリート感を混ぜ込むトラックメイキングは見事としか言いようがない。


後者は元ネタのサビフックとバックトラックをほぼ丸々ダイレクトサンプルしたお洒落なループトラックに仕上がっている。サンプル元は「Uncle James-New York City」。1973年のアーバンソウルをほぼ現代風にリメイクしたと言って良いほどのダイレクトサンプルではあるが、癖になる「Listen to me〜」のフックループと耳触りが良く上品な印象のバックトラックを、心地良いBPMのグルーヴで仕上げており、何度もリピートしたくなる。


J・ディラの言わずと知れた名盤「Donuts」は、1 枚のアルバムを通しての一貫したストーリー性がある作品であったのに対し、本作は1曲1曲ドラマティックな展開の印象があるのが特徴だが、捨て曲なしでひたすらに気持ち良いアルバムに仕上がっている。

Nujabesに捧げる25トラックのトリビュート

日本人として注目したいのが、彼が日本に誇るトラックメーカーのNujabesへもトリビュートアルバムを捧げていることだ。Nujabesといえば日本が誇るレジェンドプロデューサーで、2010年に急逝した後も高く評価され、普段ヒップホップに馴染みがない人にも人気があるトラックメーカーだ。プロテニス選手の錦織圭さんもファンを公言しており、コンピアルバムをリリースしているほどだ。所謂「ゴリゴリ系ヒップホップ」とは対極の流麗華麗なヌジャベスのトラックは日本人のみならず世界中の音楽リスナーを虜にしてきた。Ta-kuもそんなヌジャベスに影響を受けた1人であり、2015年に公式リリースした「25 Nights For Nujabes」は太いベースラインは残しつつジャジーメロウなインスト集に仕上がっている。


この作品で筆者のイチオシは10曲目「Night 10」と24曲目「Night 24」
前者はTa-ku節全開のループトラックで、心地良いグルーヴのループだけと思いきや、曲の後半ではビートをうねらせたり、本作品がNujabesをリスペクトしたピアノ基調の理路整然とした曲が多い中、遊び心もありつつポジティブな気分にさせてくれる1曲として目立っている。


後者は元ネタの暗めのピアノベースにそのままドラムベースの打ち込みを追加した鬱なトラックで、Nujabesというよりはレディオヘッド(Radiohead)を聴かされているような感覚になる。鬱な感じとメロウな感触の中間が心地良く感じる人には最高にチルアウト出来る1曲ではないだろうか。


どの曲もNujabesを連想させる流麗かつメロウなメロディに様々な表情のドラムベースを乗せており、まさにTa-kuのオールマイティなビートセンスを感じる。2018年には2曲のボーナストラックを追加し、完全版として再リリースされているので要チェックだ。

【まとめ】

アメリカ西海岸から発信され始めた次世代のビートが世界中でシェアされ、そこからまた新たなビートシーンが生まれている。故Nujabesもその1人であり、彼が蒔いた種もまた世界各地で火種が生まれている。Ta-kuはまさにその火種のループが生んだジャンルレスかつ非凡なビートメーカーであり、世界へと活躍の場を拡げているパイオニアだ。普段ヒップホップやソウルというジャンルを聴かない人でも彼のビートには心揺れ、単なるチル系とも違うソウルフルで煌びやかな世界観にどっぷりハマるはずだ。王道のヒップホップからエレクトロ、メロウ系まで網羅するオールマイティなTa-kuのビートセンスを是非チェックして欲しい。