The Black Operaから紐解く現在社会Ⅱ
2019.04.09

”Worldwide”
まず始めに、The Black Operaとは一体何者なのか。普段通り、インターネットを駆使してネットサーフィンを数時間行ってみるが、これといった情報はキャッチできない。おそらく頑固な匿名性を掲げている集団に違いない。近頃では、そのような売り出し方をしているアーティストは珍しくない為、膨大な作業だが、YoutubeアカウントにUPされているMVや、Soundcloud、Bandcampの音源を片っ端から洗い流してみる事に。作業からちょうど30分経った頃だろうか、握っていたマウスを自分の手汗で滑らし、私は我に返った。TBOというアーティストを追えば追うほど、踏み込んではいけないエリアに自分が入り込んでいる気がし、緊張感が高まっている自分に気づく。リサーチの結果、彼らはおそらく2012年頃から動きを見せているようだ。そして、その少ない情報からあることに辿り着いた。
”TBOとは、様々なアート表現を通し、完璧な調和を作り上げ、この世界に対抗していく事を目的とした集団”そう、TBOとは、ラッパーでもアーテイストでもなく、ある目的を遂行するために集った組織なのだ。それゆえ、Bandcampの出身地の欄にはデトロイト、ミシガンを掲げ、Facebookにはアトランタ、シカゴ、デトロイト、ニューヨーク、ロサンゼルス、パリ。そしてTBOのルーツには、ナイジェリア、ウガンダ、マダガスカル、フランス、アメリカとあり、続けてこう記載されている。”WE don’t claim just one place; WE take THE WORLD. ”・”我々は、たった1つの場所とは断言しない。我々はこの世界を取る。”この1文から私は、TBOをニューヨーク・スタテンアイランドという小さな島から1つの歴史を築きあげたWu-tang Clanと重ね合わせた。
ますます謎が深まり、私の探求心はもう止めることができない所まできているようだ。唯一の手掛かりとなる彼らの表現方法をさらに掘っていく。少しずつではあるが、そこから彼らの影がようやく見えてきた。
”one message”
黒い謎のベールに包まれたTBOという組織。ここで、彼らを紐解いていく為、敢えて1組のアーティストとして説明してみよう。どうやら表舞台に出ているのは、Jamall BuffordとMagestik Legendの名を掲げる2人。この2人はソロとしても音楽活動も行っており、面白いことにデビュー当時の名は#120279 #041380と数字であったようだ。そして彼らの音楽ジャンルはNACM(New Age Cult Music)。直訳すれば”新時代のカルト音楽”となり、私たちの言葉でジャンル分けするならば、オペラ調のダーク・サイケデリック・ヒップホップとでも言えるだろうか。文字にすると一見軽く見えるが、私が初めて彼らの楽曲を耳にした際に味わったあのエスプレッソのコクは今でもしっかりと残っている。その音楽性の高さはもちろん、ヒップホップの黄金世代と呼ばれたレジェンド・ラッパー達から放出されていたのと同じDopeなヒップホップ・バイブス。
そして強固で軸の通ったメッセージ性。Artistic Freedom Fightersを掲げる彼らのメッセージは様々であり、人種、政治、芸術的表現、経済学、、あるいはこれら全てをひっくるめ、大衆に何かこの社会に危機が迫っている事を警告しているようにも感じ取れる。2016年にリリースされたアルバム『African American』では、まるで映画や小説のように展開していくストーリー性のあるもので私たちにメッセージを残した。13のトラックによって展開されていく同アルバム。救いを求めて必死に叫ぶ様が哲学的に描かれた「Save US」は印象的であり、簡易な文化的統一を酷く嘆くタイトル・トラックに加え、女性の強さを称賛する「Black Woman Is God」などなど、アルバムを通して、隠され続けてきた自身たちの本物のルーツをダイレクトに伝え、人種的再起を呼び掛けている。
楽曲を聴くだけで、彼らの姿勢は一挙に伝わってくる。成り上って、光り輝くブリンブリンをつけ、高級車を乗り回したいなどといった浅はかな気持ちは彼らからは全く感じ取れない。それよりも、もっと深く、もっとシリアスなのだ。極端な例を挙げるとすれば、今でも最前線で銃を構えるヒップホップ・ソルジャー”Nas”のスタンスを思い浮かべてくれると分かりやすいだろうか。
彼らが我々に暗示しているメッセージとは一体何か。それは、彼らが頻繁に使用するある言葉から見えてきた。”Demonstration”。黒いスープの正体は”デモ”だったのだ。
”Demonstration”
彼らが話題となり始めたのは、リリースされてきた楽曲ではなく、ライブ。そして彼らは、自身たちのライブを”デモンストレーション”と呼んでいる。ライブ・デモンストレーションでは、曲ごとに衣装を変え、異なるキャラクターを演じ、投影したアートワークを巧みに操るなど、5感で1曲のストーリを大衆に体感させている。それはまるでパフォーマンスアート、演劇、マルチメディア、そしてラップの融合といえる新たな形として人々の前に現れた。そこから読み取れるのは、彼らの匿名性というものは、単にマーケティング戦略といった浅はかな次元ではなく、その裏には1曲1曲の個性とメッセージ性をより確かなものとして大衆に伝える意味合いがしっかりと込められている。
自分達の名前や身元は二の次であり、変なレッテルなしにメッセージ性のみを人々の心に届ける重要性。曲ごとにキャラクターを変える事により、その曲の重みは増し、大衆に意識をもたらすための1つの手段として、彼らは音楽を使って人生やメディアで起こっている事の重大さを伝えているに違いない。
コミュニティ全体を代表して、社会的、人種的、政治的問題についての視点と理解を、彼らは芸術というものを通して広げていき、私たちは1つであるという事を人類に思い出させるという無償の活動を行っている組織なのだ。
そしてTBOは、さらに大きな影響を人類に与えるために、大きなステージを目指し続け、その為に現実の物語を進化させ続けるデモンストレーションをこれからも遂行していくのであろう。
wikipediaによると、、
[デモンストレーション(英語 demonstration)、略してデモ (demo) とは、物事が現実であることを確かに示すこと、事実であることを論証すること、実物に即して本物の機能を示すことなどを意味する。]
まさに、これまでに類を見ない、本物のストーリー・テラーが現在社会に現れたのだ。
〔The Black Operaから紐解く現在社会Ⅲ〕に続く、、

Writer / g.g
we are one. peace.