Anderson Paakの傑作曲『Tints』から"現代社会の意味"を読み解く。隠し事はダメな事?
2018.11.16

"ホームレスから一躍、有名人気アーティストへ"
現在LAの最前線で活躍するミュージシャン兼レコードプロデューサーであるAnderson Paak(本名Brandon Paak Anderson)は、1986年カリフォルニア、オックスナードでコリアン・アメリカンの母と・アフリカン・アメリカンの父の間に産まれる。ミドルネームのPaakは韓国の苗字=朴(パク)からきている。
家庭環境は複雑で、当時まだ7歳の頃、父親の家庭内暴力によって血まみれで倒れている母の前を、警察に連行され消え失せていく父の残像が未だに残っているという辛い思い出がある。
そんな彼の唯一の癒しとなるのは音楽だった。
10代の頃から音楽に没頭しており、音楽教師という職に就く。
そこで出会った韓国人の生徒と結婚。暖かい家庭を築きあげる。
しかし、転職したマリファナ農園での仕事を急遽失う事になり、妻と息子を連れてホームレス生活を送ることに、、
運気が回ってきたのは2011年、周りの支えもあって、音楽受注の仕事をしながら自身のデビューアルバムの製作を開始できるようになり、音楽キャリアをとことん積み出す。
2012年、ブリージー・ラヴジョイ名義で発表したミックステープ『O.B.E. Vol. 1』で初めて彼の名前が世に出る。
翌年のAnderson Paak名義で発表したEP「Cover Art」では、白人のフォーク、ロック等のクラシックな楽曲をジャズ、ソウル、R&B、ヒップホップに変換するという逆転の発想が功を成し、徐々に注目を集め出す。
そして2015年、ドクター・ドレが約15年ぶりにアルバムをリリースすると話題になっていたアルバム「Compton」に彼が参加したことにより、Anderson Paakの名前が世界に浸透する。
2016年に9th wonderやScHoolboyQなどを招き作り上げたセカンドアルバム「Malibu」は、称賛の嵐を呼び、グラミー賞を獲得する傑作となり、今の音楽シーンを牽引する一流アーティストの存在へと導いた。
豪華ゲストを迎えた待望のニューアルバム、『Oxnard』(オックスナード)
このアルバムの発表は数か月前からSNSなどで、かなり話題となっている。
それもそのはず。ゲスト陣が豪華すぎる、、
Dr. Dre、Kadhja Bonet、Snoop Dogg、Pusha T、J. Cole、Q-Tip、
BJ the Chicago Kid、Kendrick Lamar、、
90s好きならチェックせざるを得ないアルバムだ。
そんな待望のアルバム『Oxnard』から先日、MV(ミュージック・ビデオ)も公表されたKendrick Lamar参加の『Tints』を今回紹介したい。
現在のヒップホップシーンで不動の人気を保つKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)とのフューチャリングは今作で3回目。
前2作は、Dr.Dreのアルバム「Compton」から『Deep water』、サウンドトラックでもあった「Black Panther」から『Bloody Waters』と相性抜群の二人である。
今回リリースされた『Tints』は、MV共に2018年のアワードを確実に狙いに来ている力の入りようが見受けられる。
トラックは、夜の雰囲気を漂わせつつも、アップテンポでファンキーな仕上がりとなっており、西海岸のドライブにはもってこいの曲調だ。
そして、今話題となっているのがこの『Tints』のMV。
まず一度、目を通して頂きたい。
映画のネタバレサイトを見たくなるような誘発的ストーリーに加え、クオリティの高い映像の仕上がりは圧巻と言わざるをえない、、、
"アンダーソン・パークのシングル『Tints』(ティンツ)から読み解く現代社会"
〈Tint〉という単語について、
着色、陰影、サングラス…などの意味合いがあり、Window Tintingは、スモークがかった窓を意味するなど、"なにかを隠す"というニュアンスが込められているこの言葉。
では、『Tints』というこの曲には一体どういったメッセージが暗示されているのだろうか。
まず初めに、MVから読み解いていきたい。
MVの冒頭に出てくる
"Believe NONE of what you hear and only HALF of what you see"
という文。
この言葉は、アメリカの詩人作家であるEdgar Allan(エドガー・アラン・ポー)が1845年に残した言葉で、
"聞いたことは全て信じるな、見たものは半分信じろ"
というアメリカのことわざである。
続く、下着姿の女性が飲み物を取りながら、
"I really wants to live in an unmasked world"
"隠し事なしの世界に住みたい"
と、不安げに男性に語るシーン。
そして、『Tints』のイントロと共に男がイメージする世界が始まっていく。
PaakとLamarの二人は、その世界の中で、あらゆる境遇における役を見事に演じきっている。
ここでの登場人物が持つ共通点は、
"他人には見られたくない【裏の顔】を持っている"
という事。
ここで注目してもらいたいのが、どの場面においても、その人の【裏の顔】が始まる瞬間には、それを隠す為の”なにかしら"が存在しており、このMVではその部分にフォーカスをあてているという事が分かる。
ドア、窓、車、画面、カーテン、壁など…物理的に一目を避けれるもの。
つまり"なにかしら"とは、言い換えるなら"自分のプライバシーを守る盾"であることが分かる。
また、曲中に幾度も出てくるPaakのコーラスのフレーズ
"I need Tints"
"私にはTintsが必用だ"
歌詞全体の流れから考えても、ここでの"Tints"の存在は、悲観的というより、楽観的に捉えているようだ。
その意味で、”Tints”というものは本来の自分を解放させてくれる役割を担っているもの、
つまり"Tints"とは、自分を守る盾でもあり、ありのままの自分を出すのに必要な存在という風にまとめることが出来る。
”Tints”で隠された【裏の顔】で本性を剥き出しにし、【表の顔】で自身を抑制しているという矛盾した相互の関係性は、私たちが共存する現代社会での〈生き辛さ〉そのものを表しているのではないだろうか。
世界的に有名になったアーティストAnderson Paak とKendrick Lamarという二人の人間も直面している、世間のイメージによって作られた自分と本当の自分との葛藤、、、
その上で、
”〈Tints=隠し事〉というものは私たちの社会では、あって当たり前の存在"
と、明るく導いた彼らなりの考えを、今回『Tints』という曲を通して、同じ社会で葛藤している私たちに向けて伝えようとしているのではないだろうか。
"生き辛いこの世の中だけど、今日はドライブでもして全部忘れようぜ!"
といった彼らの粋のかかった、クールな開き直りソングとも言えるだろう。
2018年のアワードの予感漂う、最高傑作ではないだろうか。
ちなみに、動画の2:45あたりには今週発売のアルバム「Oxnard」においてエグゼクティブ・プロデューサーを任されいるDr.Dreとその妻が映っている。豪華客人を招いたAnderson Paakの「Oxnard」も是非チェックして頂きたい。

Writer / g.g
we are one. peace.