西海岸のヒップホップシーンを作ったギャングスタラップグループと言えば?

2018.11.17

ヒップホップを歴史としての文脈で語ることにおいて欠かすことのできないグループの一つN.W.A(エヌ・ダブリュー・エー)。80年代後半から90年代初期にかけて活動していたグループにも関わらず、現在においてもその影響力は色褪せない。メンバーはEAZY.E,MC Ren,DJ Yella,Arabian Prince,Ice cube ,Dr.Dreと、個人をとってもそれぞれがヒップホップシーンにおける重要人物。当時は依然としてニューヨークを中心とした東海岸がヒップホップシーンを引っ張っていたが、西海岸のヒップホップカルチャーをメインストリームに一押し上げたのは間違いなくN.W.Aの存在があったからだ。

アメリカ社会の理不尽さを訴えた音楽

まずはそんな彼らの色を象徴する代表曲「Fuck Tha Police」からチェックいただきましょう。


タイトルの時点であからさまだが、彼らの特徴はとにかく暴力的、反体制的。とにかくアメリカ社会における警察の横暴さについて納得いかない、という不満をストレートに表現した一曲。彼らが表現したこの暴力的で過激な表現は後にギャングスタラップとして西海岸の象徴と呼べる確立されたモノになっていく。ただし、彼ら自身は凶悪さ、ギャングとしてのプライドを主張したかったわけではなく、あくまで自分達が日常的に感じる不満や怒りを主張したかっただけに過ぎないのだ。

犯罪の多い国の中でも更に治安の悪いコンプトン

彼らが育ったカリフォルニア州のコンプトンはとにかく犯罪率の高い地域で、メンバーのそれぞれが不満を持ちながら生活していた。EAZY.E は薬物の売人として生計を立てていて、警察沙汰に巻き込まれることはしょっちゅう。Dr.DreはDJに没頭して、当時から多くの時間を音楽に捧げていましたが、母親はそれを良しとせずに、その上手くいかない家族関係に悩む日々。Ice cubeもリリックを書くことに夢中になっていたが、所属していたギャング集団からはノートにリリックを書き続ける姿を批判され続けていた。スリリングな生活を続ける中で溜まっていく鬱憤を晴らす場所が彼らには必要で、若い黒人というだけで警察から目をつけられる理不尽さに黙っていられなかったのだ。

彼らが「Fuck Tha police」を製作するきっかけになった出来事がある。Dr.DreとEAZY.Eが一緒に、バスを待っている人々をペイントボール弾で打っていたときのことだ。(既に意味不明の行動であることはさておき)警察に見つかった彼らはうつ伏せに組み伏せられ、その間ひたすら銃を突きつけられ、その時のムカつき具合が発端となって「Fuck Tha Police」は製作されました。これだけ聞くと、自業自得の逆ギレのようにも思えるが、警察が横暴であったこともまた事実だったのです。気に食わない人間を片っ端から取り締まり、黒人であれば、子供ですらうろついているだけで、厳しく取り締まる警察の権力の濫用を批判したのだ。

心優しいメンバー:ドクター・ドレ

今やヒップホップ界の生ける伝説となったDr.Dreですが、この「Fuck the police」のリリースに当たっては少し可愛げのあるエピソードがあります。「Fuck the police」の作成途中、交通違反で警察に週末限定で奉仕活動を課せられていたDr.Dreは警察の印象をこれ以上悪くしたくないという懸念を持っていました。そのためこの曲を大々的に発表することに対してメンバー間で唯一否定的だったのだ。しかし、この奉仕活動が終わったときにIce cubeが同曲の発表に対してもう一度確認を取った際には何も迷うことなくOKサインを出したのだとか。

ドキュメンタリー映画 "Straight Outta Compton"

2015年に放映された彼らの自伝映画「Straight Outta Compton」では彼らの結成から解散に至るまでのエピソードがぎっしり詰められており、大きな話題を呼びました。アルバムとしての『Straight Outta Compton』(1988)もリバイバルヒットし、N.W.Aの伝説は最早留まることを知りません。純粋に映画作品としても面白い作品になっていますので、まだご覧になっていない方は是非こちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。


Writer / hook

I love hip-hop and surrouded musics