『Good Kid M.a.a.D City』の歌詞から学ぶケンドリックラマーの哲学と人生②

2018.11.20

2012年にリリースされたアルバム『Good Kid M.a.a.D City』からケンドリック・ラマーの背景に迫る。今回はアルバム中3曲目、「Backseat Freestyle」からご紹介。こちらの曲もシングルカットされているのでPVも合わせてご覧いただきたい。

キング牧師をオマージュし夢を語るコンプトン出身のラッパー


開幕の繰り返し部分、

”Martin had a dream”

”Kendrick have a dream”

のマーティンとは黒人の独立運動のスピーチで有名なMartin Luther King=キング牧師を指していて、スピーチ中の名言「I have a dream」にかかっている。1曲を通じて、ヒップホップで成功して金と女、名声の全て得て成し遂げてやったんだ、という内容がライムされており、なんというかコンプトンのラッパーらしい曲になっている。”I pray my dick get big as the Eiffel Tower/So I can fuck the world for 72 hours”というリリックに関してはケンドリックラマー自身が解説を行なっていて、これは映画「マトリックス」からの引用なんだとか。この映画マトリックスには主人公であるネオが赤のカプセルの薬を飲むか青のカプセルを飲むのか迫られるシーンがあります。

真実と向き合うか、偽りの日常を過ごすか。コンプトンの2大ギャングが赤色と青色のカラーで別れており、どちらかに属さなければ弱者としてしか生きていけないと感じていたケンドリック・ラマーにとって、そのシーンはまさに自分ごとのように感じられたようだ。アルバムにおけるこの曲の立ち位置を考えていくと単なるヒップホップドリームを掴んだんだ!という曲とは別の意味合いが見えてくる。前の曲とのスキット部分で友人にラップをしようと誘われた流れがあったこともあり、物語としては過去のケンドリック・ラマー であるK Dotが友人とノリノリで車中で夢を語りながらラップをしているのだという解釈ができる。ここから物語は動き出し、4曲目の「The Art of Peer Pressure」へと写っていく。

マリファナを吸い酒を飲み悪事を働く生活

アルバム中4曲目、「The Art of Peer Pressure」は明確に彼の少年時代の考えが示されているストーリー仕立ての内容。友人達と車に乗って、マリファナを吸ったり酒を飲みながら悪事を働く様子が揚々と表現されている。タイトルのPeer Pressureとは「同調圧力」的なことですね。やれと強要されていたわけではないにせよ友人達は当たり前のように悪事を働いていて、ケンドリック・ラマー自身もそれが当然として振る舞う必要があった。

”I got the blunt in my mouth”

”Usually I’m drug-free, but shit I’m with the homies”

普段はやらないのに、今日はホーミー達と一緒だからマリファナも吸っちゃうぜ、とよくこの心理状況が現れている。空気を読むことを強要されがちな日本人にはどこかよく響いてしまうニュアンス。彼の当時の心の弱い部分を表現することが逆説的に、状況に飲まれるなよ、というメッセージを感じさせる。リリックの中盤からはついに、仲間達と空き巣に入りますが、家主に見つかって警察に追いかけられる。この時は幸い上手く逃げ切きることが出来た、というところで曲は終わり。

その後のスキット部分では、K Dotの仲間たちの会話が行われている。ブランツ(マリファナを葉巻で巻いたもの)にエンジェルダストという強烈な薬物が入っていたため、普段吸い慣れていないK Dotは具合が悪くなってしまう。仲間たちは彼を家に返すのですが、その仲間達の話の中にアルバム1曲目「Sherane a.k.a Master Splinter’s Daughter」で出てきたシェレーンが出てきており「今日の晩はKDotはシェレーンとヤるだろ」と話題になっている。

残酷な現実をラップという形で表現

そして5曲目の「Money Trees」。ここまでの状況のおさらい的なところだろうか。この曲の中で強盗をするのだとか、車内でのフリースタイルラップであったりだとか、少年時代のコンプトンでのライフスタイルについてのラップがメイン。リリックの中には叔父が銃弾で撃たれて死んでいるという事実も明かされ、コンプトンの現実の壮絶さもあらわになる。

Money trees is the perfect place for shade and that’s just how I feel, now, now

金の成る木は隠れるのに最高の場所だ!というこのリリックは、裏を返せば、金をもったり、お金になりそうな話がチラつくと物の見え方が変わってしまうのだという嘆きを表しているのかも。この曲が終わった後のスキット部分では再度母親からの電話の音声が流れ、車を早く返して欲しいともう一度促されています。1曲目とは対象的に背後から聞こえる父親の声はなぜか陽気。その陽気さと裏返しに徐々に物語は不穏な空気に包まれていく。

次回は6曲目「Poetic Justice」からご紹介。この曲は客演にDrakeを迎えており、シングルとしてもリリースされている曲になります。

続く

Writer / Taneda

平成初頭生まれ会社員。 趣味のブレイクダンスをきっかけにブラックミュージックに没頭。 なんやかんやあってjazzに現在傾倒中。