『Good Kid M.a.a.D City』の歌詞から学ぶケンドリックラマーの哲学と人生③
2018.11.21

2012年にリリースされたアルバム『Good Kid M.a.a.D City』からケンドリック・ラマーの背景に迫る連載第三弾。今回はアルバム中6曲目、「Poetic Justice」からご紹介。こちらの曲もシングルカットされているのでPVも合わせてご覧下さい。
豪華客演、人気ラッパードレイクを迎えた1曲
この曲には、客演としてカナダ出身の人気ラッパーDrake(ドレイク)を客演として迎えている。「Poetic Justice」は直訳すると「詩的正義」。実際の正義とは別に、詩や小説中での劇中において成り立つ正義のことだ。水戸黄門で必ず悪代官が懲らしめられるような勧善懲悪的な展開のことを西洋においては「Poetic Justice」という表現をする。
同タイトルの映画が1993年に公開されていて、その主演を務めていたのが西海岸の伝説となった2Pac。ケンドリック・ラマーは各所のインタビューで2Pacへのリスペクトを語っていて、同じ西海岸から現れたカリスマとして大きく影響を受けていいる。さらにこの曲のサンプリング元はこの映画「Poetic Justice」で、2Pacと共演していたJanet Jacksonの「Any Time,Any Place」。映画との関係性をより明確にしている。
曲の内容は彼女との関係性を語ったもの。彼女への愛情を表現しつつも、セレブぶった振る舞いをすることやしょーもない男と遊ぶことに対して間違った方向に進むなよ、と諭すような内容になっている。女性に対して自分を安く売るなよ、というようなメッセージを節々に感じさせる。この曲終わりのスキット部分は1曲目のスキットと繋がっている。シェレーンの家に着いた少年時代のケンドリック・ラマー=K dotは彼女の家の前で待ち伏せていた2人のパーカーを着た男に問い詰められる。しきりにどこからやって来たのか問い詰められ、最後には結局K dotは車から降ろされ、組み伏せられるような演出が。
警察による人種差別を訴えるリリックの意味
アルバムタイトルの前段にあたる「Good Kid」と名付けられた7曲目。内容としてはこのアルバムにおいても重要な意味を持っている。「Good Kid」というのは当然ケンドリック・ラマー自身のこと。コンプトンという犯罪多発地域に産まれながら、その街の狂気をまだ自身の中に取り込み切ってはいない、健全な心を残した少年。
1バース目、
Look inside these walls and you see them having withdrawals
Of a prisoner on his way
Trapped inside your desire
To fire bullets that stray
コンプトンの悪い環境から抜け出そうとあがき続けるも、まだ自分の欲望に屈して引き戻されてしまう。周囲の環境に染まりきることもできず、実害を被ることも多い中で、I don’t mind because one day you respectいつかはきっと良心をキープする自分を皆がリスペクトするんだとラップしています。
しかし2バース目、He don’t mind, he know he’ll never respect .対比するようなこのリリックで指す「He」は主に警察のこと。コンプトンの街では若い黒人というだけでギャング扱いを受け、被害者であるはずの自分が何もしていないのに当然のように警察に取り締まられる現状に対して、どうせ警察になんか自分の良心が伝わるはずなんかないと、半ば諦めのような言葉を刻んでいる。深刻な人種差別が蔓延している、それも警察が当然のように肌の色で市民のことを判断している、というコンプトンの現実を垣間見れる1曲だ。
過去の後悔と消したい記憶
「Good Kid」と対をなす一曲。こちらも各バースでコンプトンにおける凄惨たる日常をラップしている。この曲ではケンドリック・ラマーが過去に体験してきた事件がいくつも登場。幼い頃にハンバーガー屋で目の前で人が撃ち殺される瞬間を目撃し、従兄弟も銃撃戦で失ったのだ。彼が薬物に対しての否定的な感情を持つ理由となるエピソードとして、初めて吸ったブランツがキツすぎて、泡を吹いてぶっ倒れたこともリリックになっている。この曲の終わりのスキットではシェレーンの家で男2人に襲われた後、仲間の所に戻り、慰めるように酒を勧めるような会話が入る。
強い酒を毎日飲みストレスを発散
終始酒のことについて書かれた一曲。酒の飲み方を教えてやるよ、酒で満杯になったプールに飛び込む、それがスタートだ!というリリックが登場する。これはケンドリック・ラマー自身の言葉というよりかは、家族や周囲の人間の発言のようだ。周りの人間がコンプトンでの過激な生活のストレスを大量の酒で晴らしていて、それによって日常が荒れていく様子を実情として語っている。ここでのスキットは物語の中で特に重要な位置を占めている。シェレーンの家の前でケンドリック・ラマーを組み伏せた2人の男に対して、仲間と一緒に仕返しをしに行く所から始まる。仲間の一人がターゲットを見つけて銃を撃ち出した所からは銃撃戦。銃撃音が聞こえた後、仲間同士で無事の確認をしますが、親友のデイヴからの返答がない。この仕返しに行ったばかりにK Dotは親友を亡くしてしまったのだ。

Writer / hook
I love hip-hop and surrouded musics