Lil Wayne ”サウスからヒップホップシーンの代表格になったラッパー”が持つラップスタイルへのプライド。

2018.11.28

ニューオーリンズで生まれ育ったLil Wayne(リル・ウェイン)はわずか11才にしてレコード会社に自分から猛烈アピールして契約。その後順調にヒップホップのスター街道を辿る。 数多くのアーティストの作品に客演として迎え入れられており、それもEminemDrakeKanye Westといった同時代のスーパースター達の作品に参加している。 自身のアルバム、シングルも飛ぶように売れ、全米のチャートの1位常連のHip Hopアーティストになった。

サウス出身lil Wayneのラップスタイル


2008年リリースのアルバム『Tha Carter III』は初週で100万枚を売り上げる大ヒット作品となった。
動画の1曲「Lollipop」は『Tha Carter III』からの先行シングルとして発表された曲で、Lil Wayneのセールス面の代表曲と呼べるもの。Sh, sh, she lick me like a lollipopShe, she lick me like a lollipop, lollipop 露骨に欲求が表現されたリリックに対して彼自身は批判されることを恐れない。若いラッパーらしく、マリファナ、女が大好き。リリックにもその豪遊っぷりはよく表現されている。ただしアルコールはそれほど好きではないようで、刺激の強すぎるドラッグも体に合わないため否定的。
刺激的なリリックはギャンスターらしいキャラクター作りのためではなく、あくまで自分自身の欲求に照らし合わせて生み出される、彼にとっての自然体の表現に過ぎない。若者にとってそのセレブで自由な様は一つの新しい形のヒップホップのアイコンとしての憧れであり、アメリカを代表するスターの一人になった。

若き有名ラッパーが感じる自身のスタイルに対してのプライド

LilWayne2

Lil Wayneには周囲を全く気にかけない独特な雰囲気があり、そのオーラも当然人気の秘訣だ。そんな彼の素顔を追いかけたドキュメンタリー「Lil Wayne The Carter」が2016年6月2日に公開された。大ヒット作『Carter III』の発売前後を密着し、その舞台裏で渦巻くLil Wayneとその周囲の人々の感情に迫った作品。しかしその内容のスキャンダラスな部分が災いし、Lil Wayne本人が無許可の楽曲使用と、自身の名誉を傷つけるものだとして訴訟を起こしたのだ。結果としてはLil Wayneの敗訴に終わり、映画は公開されて皮肉にも様々なメディアで高い評価を得ることになった。

興味深いシーンは山ほどあるのだが、個人的に印象に残ったシーンはLil Wayneが記者からの質問が気に食わず、取材を中止するシーン。記者はLil Wayneがジャズ発祥の地ニューオリンズ出身ということもあって、ジャズからの影響を受けているのか?ポエトリー的な部分はどこに背景があるのか?といった質問を投げかける。Lil Wayneはリリックを紙に書き留めるようなことはせず感じたものをそのままレコーディングしていくスタイルをとっており、ジャズの背景にも少なくとも当時の時点でほとんど興味がなかった。この記者の質問はLil Wayneのそういったスタイルと気まずいほどに噛み合わず、Lil Wayneは取材の中止を要求してしまう。 このシーンはLil Wayneの気分屋っぽい一面ともとれるし、Lil Wayneへの事前のリサーチ不足とも言える記者のリスペクト不足という見方もできる。

これまでの黒人のラッパーは自身の音楽的な背景として様々なジャンルの音楽を生まれながらに聴いて育ったことをルーツとして語ることが多い。リリックとしても黒人として受けてきた扱いに対しての怒りをメッセージとして含んだ作品も過去の名作がたくさんある。 しかしLil Wayneのリリックにはあまりそういった要素は見られない。Lil Wayne自身があまりそういった扱いを受けたことがないからであり、過去に黒人の人権運動に対して否定的な発言をして炎上したことすらある。このシーンは、温故知新を大事とするジャズの潮流とはまた違う、新しい世代が自分自身の経験をナチュラルにリリックに乗せることを恐れない若い強さを感じられるような一幕であった。

7年ぶり新リリースのアルバム『Tha Carter Ⅴ』

Lil Wayneは2018年10月に7年ぶりとなる自身のアルバムシリーズの最新作となる『Tha Carter Ⅴ』を発表。元々は2014年にリリースされるはずの本作はレコード会社とのしがらみもあり大幅に発表が遅れる結果となった。Nicki Minaj, Kendrick Lamarら現代を代表するスター達も参加しており、発売後、早速ビルボードのチャートの首位に立った。全23曲と、ボリュームたっぷりの本作も是非チェックして頂きたい。


Writer / Taneda

平成初頭生まれ会社員。 趣味のブレイクダンスをきっかけにブラックミュージックに没頭。 なんやかんやあってjazzに現在傾倒中。