Logic ”人は見た目で判断しちゃいけない”そのスキルと響くリリックの意味、、、

2018.12.09

全米アルバムチャートの初登場1位。有名若手ラッパーLogicの強いメッセージ性

昨年、3週連続で1位に君臨していたケンドリック・ラマーの『DAMN.』を押しのけ、全米アルバムチャートの初登場1位を獲得し、誰もが認めるトップラッパーになったLogic(ロジック)。ラッパーとしては珍しい細身で色が白くメガネ、というナードな出で立ちのLogicはコカイン中毒の黒人の父親と、家庭内で人種差別用語を平然と使う白人の母親の間に産まれた。産まれながらに自分の居場所の獲得が困難であったLogicが紡ぐメッセージはやがて人々の感情を強く揺さぶり、その虜にしていく。

有名ラッパーになるチャンスを掴んだ1枚のアルバム

1990年生まれ、28歳のLogicのラッパーとしてのキャリアはそもそも順調そのものだった。2013年にはヒップホップの専門誌、XXLが今後注目すべき若手ラッパーとして紹介する「XXL Freshmen Class」でピックアップされ、2015年には『The Incredible True Story』にてR&B/ヒップホップのチャートで1位を獲得するなど、そのスキルフルなラップは現代の注目株として常に取り上げ続けられてきた。そんなLogicはついに2017年にメガヒット作『Everybody』を発表する。

アメリカの自殺問題をテーマにした、メッセージ性の強いリリックでラップ



『Everybody』の中でもとりわけ注目を集めることになった1曲が「1-800-273-8255」。この黒人の少年を主人公とした短編映画のようなMVはYoutubeにて3億回以上再生されており、2017年の大きな話題となった。「1-800-273-8255」とはアメリカの自殺防止ホットラインの電話番号をそのままタイトルにしており、そのリリックにも生きることを諦めないで欲しいというメッセージがふんだんに込められている。

”I don't wanna be alive”
”I don't wanna be alive”
”I just wanna die today”

前半は本当の意味での他者からの理解を受けられずにこのまま息苦しいくらいなら「死にたい」という気持ちを吐き出さずにはいられない自殺志願者としてのリリック。中盤でその相談を受ける者の言葉として視点が変わり、大変だし苦悩もあるが生きていく価値を説く。最後は自殺志願者の視点に戻り、生きていたいんだ、という葛藤しながらも前向きな言葉が繰り返され、「1-800-273-8255」は幕を閉じる。ストレートなリリックは時に芸術的だが難解で遠回しなやり方よりも人の心を捉えるのかもしれない。

Logicが放つリリックの重みは自らの人生経験が背景にあった

昨年のVideo Music AwardではLogicが「1-800-273-8255」を熱演。番号が明記されたTシャツを使ったパーフォマンスも目を引くが、是非チェックして頂きたいのが、歌い終えた後のLogicの言葉の数々。


メディアがあまり語りたがらない、人種差別、性差別、家庭内暴力などについてのLogicとしての意見として、平等のために戦い続けるんだという意志を表明している。これにはLogicのこれまでの人生での経験も大きく反映されている。Logicは黒人と白人のハーフであり、その家庭環境は決して好ましいと言える者ではなかった。父親はドラッグに溺れ、兄はその父にドラッグを売りつけていたし、母親はLogicのことを黒人として捉え、差別用語を用いてLogicのことを呼び続けた。ラッパーとして活躍するようになってからは反対に、かつてEminemが経験したようにその見た目が白人であるから得しているのだと難癖をつけられるようになり、辟易していた。見た目もラッパーのステレオタイプから遠く離れており、どちらかと言えばあまり目立たないようなメガネ君。実際にラッパーとしてのキャリアが軌道に乗ってしまったが故に生じた慌ただしい生活とプレッシャーは彼を苦しめ続けていた。しかし、『Everybody』以来のLogicは一つ大きく踏み出した露だろう。Logicを救ったのはメガヒットではなく、自分の心からのメッセージが世界の人々にこれだけの共感を得たのだという事実。2018には新作『YSⅣ』をリリース。

クラシックなヒップホップサウンドの色味がブラッシュアップされたような印象を受けるアルバムは2018年の目玉の一つになった。実はこのLogic、引退を匂わす発言をしてはいるのだが、彼の思惑とは裏腹に、「ヤング・シナトラ」の快進撃はまだまだ止まる気配を見せない。

Writer / Taneda

平成初頭生まれ会社員。 趣味のブレイクダンスをきっかけにブラックミュージックに没頭。 なんやかんやあってjazzに現在傾倒中。