カニエ・ウェストとはただのお騒がせセレブなのか?
2018.12.11

ファッションにおいても影響力を持つラッパー:カニエ・ウエスト
Kanye West(カニエ・ウェスト)が何かをすれば世間が騒ぐ。一挙手一投足がここまで注目されるおっさんはカニエ・ウェストを除けばもはや大統領くらいのものだろう。発表するアルバムは悉くチャートの1位を獲得し、グラミー賞に名を連ね続ける。同郷のラッパーをフックアップすればたちまち若手をスターダムに押し上げる。スニーカーをプロデュースすればナイキ、アディダスどこで出しても大人気。人前に出ればそのファッションが常に注目され、カニエのファッションスタイルがトレンドになり、挙句の果てには、ちょっとスケボーに乗ってオーリーにチャレンジしたことが音楽媒体のニュースとして取り上げられる始末・・・
MTVアワードの授賞式でテイラー・スイフトのインタビュー中に壇上に乱入してみたり、ツイッター上での政治的な発言が全米中で批判の的になってみたり、何をしでかすか分からない。そんな物怖じしない人柄もその影響力に大きく関与しているのだろう。
最近音楽に関する以外のことで何かと注目されすぎなカニエ・ウェストだが、そのただならぬ世間への影響力はやはりその音楽の才能に由来しているのだ。そこで彼の初期の活動、ソロデビューアルバム『The College Dropout』に今一度立ち返って見よう。
初期のアルバム制作活動に光るカニエ・ウエストのセンスと人気になるきっかけ
そもそもカニエ・ウェストはその初期の活動においてはいわゆるフロントマンではなかった。もちろん若くしてその才能は光るものがあり、”Hip Hopのキング”であるJay-Zに見初められいた。大学在学中に『Izzo(H.O.V.A)』や『The Blueprint』などにプロデューサーとして参加し、セールス的にも大成功したのだから、全くもってくすぶっていたわけではないのだが、現在の音楽の世界を超えた影響力から考えれば、最初からラッパーやシンガーとして舞台の一番表に立っていたわけではないというところはやや異色とも写る。そのカニエウェストが一挙に表舞台で音楽業界をかけ上げるきっかけになったのが、デビューアルバム『The College Dropout』だ。
ソウルをメインにサンプリングして作成したトラックの数々
『The College Dropout』からシングルカットされた「All Falls Down」。このアルバムの大半の曲に共通する大きなポイントがトラックメイキングにおいて、ソウルミュージックのヴォーカルをサンプリングしてトラックにかなり手をかけて溶け込ませているところ。2000年前後はネオソウルのブームの台頭であったりブラックミュージックのシーンにおいても、Soul・R&Bが大きく盛り上がりを見せた時期だった。Hip Hopのトラックにおいても頻繁に生音が活用されたり、ラッパーがSoulのアーティストに客演として迎え入れられたりと、両ジャンル間の動きが今まで以上に活発になっていた。カニエ・ウェストはJay Zの元でクラシックなスタイルの飾り気の少ないHip Hopトラックの正攻法も熟知していたし、『The College Dropout』の発表以前にアリシア・キーズの作品をプロデュースして大ヒットさせるなど、どのトラックがソウルフルなヴォーカリストを引き立てるのかもよく分かっていた。カニエ・ウェストが満を持して発表したソロデビュー作で成功を掴むのは最早必然だったのかもしれない。
カニエのラップとバックのヴォーカリストのサンプリングされた歌声は決してぶつからないように微調整されていて、その歌声の切り取り方も1曲を通じて、多彩な変化で楽しませてくれる。Soul・R&BとHip Hopの心地よい融合をトラックのプロデュースという視点から、より密になった新しい形で魅せてくれたのだ。そこには意外性や深みがあるのに、やり過ぎないところがカニエのセンスの光るところだ。やってることは新しく聴こえるし、細部に渡って手が加えられているにも関わらず、ポップに聴きやすいラインからは絶対に外さない。このアルバム、リリースが当初の予定からは大きくずれ込んでしまったのだが、それも頷けてしまうほどの完成度をカニエ・ウェストは見事に提示してきた。
挑戦し続ける姿勢とプロデューサーとしての才能
カニエ・ウェストは別に飛び抜けたルックスも持っていなければ、俳優上がりでもないし、二世タレントでもないし、リアリティショーで脚光を浴びて登場したスターでもない。いち音楽プロデューサーが現在においてここまでの影響力を持つに至るにはもちろんそのキャラクターが話題性に事欠かないこともある。しかし、並外れた才能と挑戦意欲がもたらしたものであることは誰にも否定はできないはずだ。

Writer / Taneda
平成初頭生まれ会社員。 趣味のブレイクダンスをきっかけにブラックミュージックに没頭。 なんやかんやあってjazzに現在傾倒中。