プロデューサーFlying Lotusの名作『You're Dead!』が描きだす世界。ヒップホップ編

2018.12.16

Flying Lotus - Never Catch Me ft. KendrickLamer



ジャズの魂を受け継いだヒップホッププロデューサーの奏でる音楽

Flying Lotus(フライングロータス)はジャズ史における超重要サックスプレイヤーであるJohn Coltrane(ジョン・コルトレーン)を叔父に持つというド級の血統を持つプロデューサー。「Never Catch Me」は2014年の問題作『You're Dead!』からケンドリック・ラマーをゲストとして迎えた1曲。

現行ヒップホップシーンのトップラッパーを招いてのアルバムのフックとなるようなトラックだが、『You're Dead!』はヒップホップのアルバムではないということはこの曲を聴いただけでも想像がついてしまうかもしれない。始まりのピアノの旋律とうねるようなベースライン、聴き心地としてはどこかせわしない印象を受けるが、ケンドリック・ラマーのスキルフルなラップが音楽としての纏まりを絶妙な緊張感の上で保つ。そしてそのラップか前段に過ぎなかったかのように繰り出されるベースのソロ。どこを切り取っても型破りでヒップホップとジャズどちらの要素も含みつつ、どちらの島にも取り付かない。

Flying Lotusはビートミュージックを基軸に新しい音楽性に常に挑戦し続けているのだが、その批判や嫌悪を恐れないチャレンジングな製作スタイルはヒップホップの根源的な意味合いからすれば誰よりもヒップホップだし、その楽器や音楽ジャンルの壁すら飛び越えてフリーな独自の世界を追求していく樣は、叔父のコルトレーンの絶えず新しいスタイルを模索し続けて、フリージャズのスタイルにも躊躇なく飛び込んでいったその魂をしっかりと受け継いでいる。

ゲーム・アニメカルチャーからも音楽に影響を受ける

また彼の興味はゲームや日本のアニメカルチャーにまで及ぶ。


こちらの「Dead Man's Tetris」はSnoop Dogをゲストとして招いているが、もちろんお手本通りの西海岸サウンドではない。
むしろ表題の通りゲームミュージック調のトラックがふんだんに使われ、途中からは少し悪酔いしてくるようなプレッシャーの強い展開がスリルをもたらす。ひどく酔っ払った時や、働き過ぎ、寝なさ過ぎで感覚が何となくゲームの世界みたいになってきて「いよいよヤバイな・・・」という経験がある人もいるのではないだろうか?あまり共感を得られなかったら申し訳ないが、個人的には死の淵とゲーム的な感覚であったり音楽というのはどこか近いところにあるように思えてならず、この「Dead Man's Tetris」に引き込まれてしまう。

独自の世界観を表現するイラスト

ちなみにこの曲のフューチャリングに名前が上がっているCaptain MurghyというのはFlying Lotusのラッパーとしての名義、というか一応別人という位置付けなのでオルター・エゴである。Flying Lotus自身の作品でCaptain Murghyが登場するのは『You're Dead!』が初めてのことであり、リリックにもアルバムタイトルにかなり接近したメッセージが入っていることから、Flying Lotusにとっても特別な意味のある曲なのかもしれない。”死”というものについて切迫したタイトルの通り、『You're Dead!』はそのカバーアートも独特というか、その世界観を巧妙に照らし出している。

youredead


描いたのは日本の漫画家、駕籠真太郎。

自称、奇想漫画家を名乗る駕籠真太郎は「フラクション」「駅前花嫁」などを代表作とするエロ、グロを用いたメッセージ性の強い作品がその持ち味。Flying Lotusの世界観とは確かに通じるし、好きなんだろうなということは凄くよく分かるのだが、日本の漫画を読んでいてここに辿り着くというのはFlying Lotusの相当な好き者っぷりが伺えるところである。とはいえFlying Lotus、来日の際にはドランゴボールのコスプレをして登場するなど、非常に可愛い気のある部分もあるし、東日本大震災を受けて多くのアーティストが来日を控える中で、だからこそ日本に来るんだ!と息巻いてくれためっちゃ良いやつ。

当局MY HOODにおいてヒップホップを中心としたコンテンツが多いため、ラッパーを客演として迎えた曲を挙げさせて頂いたが、『You're Dead!』はジャズ界の素晴らしいプレイヤー達がFlying Lotusに共感し、名演を吹き込んでいるところが大きな魅力である。

次回はジャズとしての側面をピックアップして『You're Dead!』の描きだす世界についてより近づいて行きたい。

Writer / Taneda

平成初頭生まれ会社員。 趣味のブレイクダンスをきっかけにブラックミュージックに没頭。 なんやかんやあってjazzに現在傾倒中。