カニエ・ウェストの歩み,作り出した歴史をアルバムと共に振り返る。Part.1 "The College Dropout"

2018.12.19



プロデューサー兼ラッパー:カニエ・ウェストが歩んできた歴史

Kanye West(カニエ・ウェスト)は今や世界で最も影響力を持つプロデューサー兼ラッパーとなり、その一挙手一投足に誰もが注目せざるを得ない。トップの動画はアダルトサイト「PornHub」の主催するPornHub Awordの受賞式のために製作されたMV。相変わらずどこに手出してんねんという活動の幅広さ。前回、そのカニエ・ウェストの初期の活動を振り返り、デビューアルバム『The Collge Dropout』を紹介し、その革新的なスタイルとしての、ソウルシンガーの早回しサンプリングについて言及した。今回は改めて、カニエ・ウェストがここまでのビッグな存在になるまでの軌跡として、ソロアルバムのリリースを順番に追っていきたい。

ラッパーとしてデビューするまでの苦悩と交通事故

ラッパーとして、一人のアーティストとしてカニエ・ウェストが大きく進出するきっかけとなったデビュー作が『The College Dropout』。この作品のリリースに漕ぎ着けるまでには紆余曲折があった。カニエ・ウェストは若くして既にプロデューサーとして才能を認められていて、大学を中退して専念しなければならないほどには多くの作品の製作を任されていた。しかしカニエ・ウェストはそれで満足できるようなタマではなかった。現在における過激な発言や、異色の行動を取ってみれば分かる通り、元来の野心家。自分自身の表舞台での活躍はカニエ・ウェストの大きなビジョンに欠かせないものだった。

しかし、彼自身デビュー作に向けてトラックの制作は精力的に行なっていたものの、作品をどこから発表するべきか、どうすれば良い形でアーティストとしてのデビューに漕ぎ着けられるのか、その足掛かりについて悩んでいた。そんな中でカニエ・ウェストは交通事故を起こしてしまう。深夜までロサンゼルスのスタジオで仕事をしていたカニエ・ウェストはその疲れもあり、運転中に眠ってしまったのだ。結果、口の中にワイヤーを通しておかなければならないほどの大怪我を負うことになるが、その時の経験をラップしたのがシングルカットされた「Through the Wire」。


億万長者になるという野望を持ったラッパーはただじゃ終わらない

MVにもその痛々しい手術の様子が映し出されているが、タダじゃ終わらないのがカニエ・ウェストだった。この1曲にはカニエ・ウェストの決意表明がしっかりと示されている。”No use in me tryna be lyin', I been tryna be signed.Tryin' to be a millionaire, how I used two lifelines” もう自分に嘘を付くのはやめて、億万長者を目指すことにする"この自動車事故はカニエ・ウェストの内に秘めていた巨大なビジョンを大きく動かす契機になったのだ。ギャング畑の出自でもない自分が、薬物の話でも女の話でもないラップでトップに上り詰めたらどれだけ爽快だろうか、というリリックがこの曲には込められている。

サンプリング元の音楽はファンク。

この曲においても初期の作品の代名詞的なスタイルである、ソウルシンガーの早回しサンプリングが用いられている。その元ネタはChaka Khanの「Through the Fire」。


大胆なサンプリングそのままの言葉遊び。"But I'm a champion, so I turned tragedy to triumph.Make music that's fire, spit my soul through the wire"このリリックの通りカニエ・ウェストはその栄光を掴み取ってしまったのだ。

Writer / Taneda

平成初頭生まれ会社員。 趣味のブレイクダンスをきっかけにブラックミュージックに没頭。 なんやかんやあってjazzに現在傾倒中。