カニエ・ウェストの歩み,作り出した歴史をアルバムと共に振り返る。Part.2 "Late Regisration"

2018.12.20

Kanye West - Diamonds From Sierra Leone


Kanye West(カニエ・ウェスト)は1stアルバム『The College Dropout』で独自のソウルミュージックのサンプリングを巧みに扱い、グラミー賞を受賞、華々しいデビューを飾ることに成功した。彼のディスコグラフィーにおいて重要だった事実はその翌年、2ndアルバム『Late Registration』をしっかり期待通りの作品として一年間でリリースに漕ぎ着けたこと。今回は2ndアルバム『Late Registration』からカニエの歴史をチェックしていきたい。

カニエ・ウエストが活動初期に影響を受けたラッパー:Common

前作『The College Dropout』の発表が2004年。ここから2ndを発表するまでの間にカニエ・ウェストのインスピレーションに大きな影響を与えるプロジェクトがあった。それがカニエと同郷のシカゴ出身のラッパー、Commonの最高傑作と名高い『Be』だ。


アルバム『Be』からシングルカットされた一曲「Go!」。このアルバムのプロデュースをカニエ・ウェストが手がけたのだが、そのサンプリングセンス、オートチューンの使用やヒップホップの楽曲には珍しい弦の音色の採用など当時のカニエの引き出しが存分に使われている。このソウルの再編集的なカニエのスタイルと、多くのソウルミュージシャンとの共演を重ねて来たコモンのラップスタイルがバチリとハマり、今聴いても全く色褪せない最高のサウンドに仕上がっている。カニエ・ウェストはこの『Be』の製作途中に自分だったらこういうラップのアプローチを取るだとか、こんなトラックメイクもしてみたいというイマジネーションをコツコツと貯めていった。その発想の蓄積がわずか1年強で全21曲”捨て曲なし”と評された2ndアルバム『Late Registration』に繋がる。

サンプリング手法の違い、カニエ・ウェストが見出した新たなスタイル

Kanye West - Touch The Sky


前作『The College Dropout』でカニエのトレードマークとして、大ヒットの一つの要因とされた、ソウルヴォーカルの早回しサンプリングは『Late Registration』では息を潜める。この収録曲「Touch The Sky」ではカーティス・メイフィールドの歯切れの良い名曲「Move on Up」をむしろ遅回しでサンプリング。温かみを感じさせるようなサウンドに変化させており、前作の雰囲気より更にポップに聴きやすい内容に収録曲全体をシフトさせていっているように感じられる。

本家の「Move On Up」がこちら。


サンプリングは大胆ながらもその色は大きくカニエ・ウェストによって変えられ、よりグルーヴィに仕上げられていることが伺える。さらにこの「Touch The Sky」においてはシカゴの若手としてブレイク前であったルーペ・フィアスコを招いており、この時点で新しい才能の発掘にも余念がなかった。過去で評価されたスタイルに囚われず、新しい楽曲を追い求める姿勢が2ndのヒット、ひいては今後のカニエの大躍進に繋がっていく。

カニエ・ウェストに取って重要な意味を持つ1曲の音楽「Hey Mama」

このアルバムにも豪華な客演を迎えており、Jay-Zはもちろん、Common、The Gameなどの有名ラッパーが存在感バッチリに登場する。しかし、このアルバムにおいて重要なポイントとなったのは外部プロデューサーとしてポップミュージックの多くのヒット作を手がけたJon Brionを招いたことであろう。コテコテのヒップホップサウンドから離れた目線を得たことで、カニエ・ウェストのサンプリングセンスを光らせつつも、ヒップホップリスナー以外からも聴きやすいサウンドメイクを捉え、より広い世界に音楽を発信する翼を得たのだ。そしてこの『Late Registration』にはカニエ・ウェストにとって未だ尚重要な意味を持つ1曲が収録されている。


それがこの「Hey Mama」。シングルカットはされていない曲だが、カニエ・ウェストはこれまでのステージにおいて何度もこの1曲をラストに持って来て披露し続けて来たのだ。カニエ・ウェストは母親を2007年に亡くしており、それ以来「Hey Mama」が持つ意味はより重要なものとなり、グラミー賞において本曲をアレンジして披露するなど、特別な1曲になっている。『Late registration』は第48回グラミー賞において3部門を受賞、ローリングストーン誌では2005年最優秀アルバムに選定され、デビューからの勢いをそのままに大成功。カニエ・ウェストの実力がまがいものでないことを証明してみせた。

Writer / Taneda

平成初頭生まれ会社員。 趣味のブレイクダンスをきっかけにブラックミュージックに没頭。 なんやかんやあってjazzに現在傾倒中。