カニエ・ウェストの歩みと作り出した歴史Part.5”My Beautiful Dark Twisted Fantasy”

2018.12.25

Kanye West - Dark Fantasy


Kanye West(カニエ・ウェスト)はスキャンダルに塗れ、その自己顕示欲が裏目に出るがあまり、かなり不安定な精神状態に追い込まれる事も一度や二度ではない。これまでもカニエ・ウェストのディスコグラフィーから彼の音楽面での彼の功績を辿ってきたが、5枚目のアルバム『My Beautiful Dark Twisted』はその中でも大きな意味を持つ重要なアルバムになった。

カニエ・ウェストのやらかしと苦悩

2008年の『808s & Heartbreak』から『My Beautiful Dark Twisted』に至るまで間はカニエ・ウェストのナルシズムや極度の二面性といったようなキャラクターの部分が今まで以上に大きく世間に”バレた”時期でもあった。その悪い意味でタダ者じゃない人間性を象徴する事件が2009年のMTVビデオ・ミュージック・アワードの受賞式。最優秀女性アーティスト・ビデオ賞を受賞したテイラー・スウィフトのスピーチ中に泥酔した状態で乱入。ビヨンセが受賞すべきだという旨の言葉を放ち会場を騒然とさせた。

Kanyewest5


翌日に、注目のバラエティ番組の初回放送のゲストとしてカニエは登場し、その場でVMAの件について謝罪したため騒動は一時的に落ち着いたが、放送直後は極悪人扱いの大バッシングを受けていた。この騒動の後にカニエ・ウェストは一度、表舞台を去りハワイ、ホノルルでの隠居生活を過ごす事になる。しかし、この世間からの冷ややかな視線から逃げるようにして向かったホノルルでカニエ・ウェストはとんでもない魔作『My Beautiful Dark Twisted』を生み出す。

豪華な客演を迎え制作された『My Beautiful Dark Twisted』

世間から大バッシングを受けつつも、カニエ・ウェストの音楽的才能は特に同業者であれば誰もが認めるところであり、ホノルルのスタジオには壮々たる面々が集まっていた。DrakeJay-ZMadlibQ-tipRZANicki Minaj、、、当サイトでも過去に取り上げたスーパースター達を集めて彼の5作目のアルバムは製作された。


この「Monster」にもRick Ross、Jay-Z、Nicki Minajが登場する。この布陣を扱ってただのコラボレーション作品とするのではなく、それぞれが醸し出すどこか狂気的な雰囲気を1曲にまとめあげてしまっている。新旧織り混ざった絶妙なトラックメイクと共にプロデューサーとしての才覚が爆発している1曲だ。

アートとして誇大されたカニエのアイデンティティ

自業自得でもあるのだが、やはり世間からのカニエに対するバッシングやしつこくスキャンダルを狙うカメラマン達は彼を苦しめた。しかし、その苦悩すら自分の中で正当化させアートに昇華させてしまう異常なまでのメンタリティがカニエ・ウェストにはある。


アルバム収録曲の「Runaway」のMVはなんと34分にも及ぶ超大作。アルバム中の他の収録曲も登場するショートフィルムになっている。「Runaway」では”ダメな自分”というという目線を持ったカニエ・ウェストが失意の中で哀しげに歌っている。しかしショートフィルム全体を通じてみれば、登場するフェニックスにカニエ自身の存在を重ねていて、その得意なアイデンティティを自己肯定しているような解釈を促しているようにも感じられる。もう一つのシングルカット曲「POWER」では批判されようが、自分の尊厳と表現意欲の元、何ものにも左右されず力を使い果たすのだという強い意志を感じさせる。

キング・クリムゾンの「21st century schizoid man」をサンプリングしたこの1曲においてカニエ・ウェストはもはやダークヒーローのような様相を呈する。結果このアルバムはカニエ・ウェストのキャリアの中でもとりわけ大絶賛を受ける超名作として取り上げられる事になる。辛口メディアとして知られるピッチフォークから10点満点の最高評価を受け、翌年のグラミー賞受賞。カニエ・ウェストは潜伏期間を経た後、『My Beautiful Dark Twisted』でまた更に別次元の手腕を発揮したのだ。

Writer / Taneda

平成初頭生まれ会社員。 趣味のブレイクダンスをきっかけにブラックミュージックに没頭。 なんやかんやあってjazzに現在傾倒中。