”日の丸を掲げるレジェンド・ビート・ボクサー” 櫻井 響

2018.12.26

自身の世界観を、口から作り出される音楽のみで自由自在に表現するヒューマン・ビート・ボクサー櫻井 響(さくらい きょう)。国内はおろか、世界中を見渡しても彼のようなオリジナルでオルタナティブなビートボクサーは見当たらないだろう。ジャズ、ファンク、ダブ、ハウス、ヒップホップ、さらに民族音楽まで、音という音全てを彼1人で表現してしまう傑出した才能を持ち合わせている。全国各地のアンダーグラウンド・パーティをギグして回るライフベースに加え、大型フェスへの出演、ハイファッション・ブランドのレセプションパーティでのショー、CMのオリジナルビートへの提供、海外各所でのツアーと、様々な需要に常に柔軟な表現で応え、未だ尚、進化が止まない人物である。


そんな彼が今回、2018年12月28日に渋谷Club Circus Tokyoで行われる大忘年会「MY HOOD」にて、ゲストライブを行ってくれる。彼の持つグルーブを軸に、様々な声と音をミックスし、図面通りに音楽を構築していくパフォーマンスは、あまりの完成度の高さに息を飲む。

” Don Chiki Pan ”

宮城県が地元の彼は、ベーシストの父とシンガーの母の影響もあり、幼少期からジャズを中心に音楽に精通した子供であった。DJとして活動していた頃にヒューマン・ビート・ボックスを開始し、たくさんの音楽仲間と繋がりつつ、自身の音楽を見つける旅が始まっていく。極度にフットワークが軽い事でも有名な彼は、現場主義を掲げ、国内、国外の境界線を取っ払った領域で様々な人や楽器とセッションを行い、自身の感性を磨く。

そして2008年、待望の1stアルバム『Don Chiki Pan』をリリース。既存のビート・ボックスの概念を覆す、前代未聞のアルバムとして話題を呼ぶ事となる。同アルバムは、レゲエの古典リディムにして、今でもダンスホールの定番トラックとなっている"Answer"のアレンジに加え、 実の父で現役ジャズ・ベーシストの櫻井不二麿氏との親子セッション、そしてゲスト陣に、レゲエ界よりジャーゲジョージ、日本のHipHopシーンの鬼才、鎮座Dopenessが参加しており、豪華な内容となっている。

ジャズ、ダブ、ブルース、ファンクなど、ほとんどの楽曲が彼の口から発せられる音だけで構築された完全オリジナルとなっており、かの有名なジャズの巨匠マイルス・ディヴィスの名曲「All Blues」を口だけで再現した第6曲目は、耳を疑う完成度の高さである。スキル至上主義に偏ってしまいがちなヒューマン・ビート・ボックスという分野において、カラフルで異色を放つ最高傑作として今も尚語られている”Don Chiki Pan”は是非一度聞いて頂きたい。

”櫻井&鎮座”

”向こう(US)のHIP HOPで言う「Hood(フッド)」って、【地域に流れる空気】のことだと思うんですよ。そういった雰囲気を与えれたらって思いながら活動してます。”このように「Hood」を語るのは、これまで日本のHIP HOPシーンに数々のムーブメントを起こしてきた名ラッパー”鎮座Dopeness”。櫻井と鎮座の2人は盟友でもあり、YOUTUBEにUPされているセッション動画では、彼らの音楽性の高さや仲の良さなどが、所々で垣間見ることができる。そんな彼らの代表曲と言えば、 鎮座率いるKOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'Sと櫻井による「FREESTYLE風」と言えよう。櫻井の安定感のあるビートボックスにHAGURETIC全快のフロウが見事に重なった、こちらの名曲は要チェックだ。

” ヒューマン・ヴァイブ ”

自然音に最もインスピレーションを受けていると語る櫻井。5感で感じとる”自然音”と、自身の根本に存在する”ソウル”が融合し作り上げられた彼の”音楽”は、スピリチュアルとも言えるヴァイブを聴く者の心に届ける。。近年では、日本での大型フェスの出演に加え、ロサンゼルス、ニューヨーク、ベルリン、オーストラリアといった世界各所で存在感を示している彼だが、あらゆる地で巡り合う様々なアーティストと繰り広げる血の通ったセッション体験は、現地の空気や景色と共に、彼のエモーショナルなセンスの一部となっていると言う。


実に8 年振りに制作された待望の2ndアルバム『TRAVELLER 』(2016)は、アートワーク、ビートボックス、編集の全てを自身で手掛け、旅先を思い出して作った曲や、架空の街、これから行ってみたい場所からインスパイアされた様々な楽曲が収録されている。同アルバムの3曲目にも収録されている、こちらの「DEEP CREEK」は、 彼の黒いヒューマン・ヴァイブによって、どこかザイオンを感じさせる架空の街へと私たちを案内してくれる。


この世に生を受け、最初に鳴らした楽器というモノを今も尚 追及し続けるビート・ボクサー、”櫻井 響”。2018年最後の金曜の夜、Circus Tokyoでは一体どのような音楽が響き渡るのだろうか。

Writer / g.g

we are one. peace.