GlichHopの立役者。UKのJ Dillaこと”Vanilla”

2019.02.15

"天才的な音楽性を持つビートメイカー兼DJ"

今やSNSなどの促進により、自己の意思とは関係なく、思いもよらない所で自身の楽曲や作品が過大評価され、気が付けば1人のアーティストとして世に認知されているという事は多々ある。その1人として、今回はUKのビートメイカー兼プロデューサーのVanilla(ヴァニラ)というアーティストを紹介していきたい。ブロンドの髪からその名がついた彼を知ったきっかけは、5、6年前からTwitterなどでよく目にし、今やジャンルとして確立している”Glich Hop”を探っていた頃であった。なにげなくクリックしたVanilla 「Chrometrails」という1曲を聞き、私は久々の衝撃を受けたのを未だに覚えている。


J DillaNujabesにぞっこんであった当時の私からしたら、Vanillaというアーティストとの出会いは、もう会うはずのないあの人とばったり街中で出会った、そんな印象であった。ここでGlich Hopというジャンルを簡単に紹介すると、

・BPMが100~120。

Hiphop とElectronicの融合。

・近頃のものでは、当初のものよりダブステ要素が加わったものが主流。

・とてつもなくGlichが効いており、故障した、欠陥のあるといった意味のLo-Fiと同じ。

要するに、重低音がかなり効いたノレる音楽ジャンルと私は捉えているのだが、その未完成さの集合体で完成されている音楽の心地よさは中毒性を持ち合わせ、時には爽快で心地よく、時にはノスタルジックと、このジャンルは様々な顔を持っているところが私は好きだ。


そして今回、改めて彼の昔の曲から聞き直してみたが、やはり天才的だと感じてしまった。情緒溢れんばかりのメロディアスなトラックに、裏切ることのないクールなドラムライン、そして洗礼されたサンプリング技術の全てが1つにまとまった彼の楽曲の数々を聞いていると、DillaやNujabesの面影をひしひし感じ、少し感傷的な気持ちになる。


”影響を受けたアーティストはJ Dilla、Nujabes、、”10代の頃にロック・パンクにハマり、音楽の魅力を知っていった彼は、その数年後Hiphopと出会う。コンピュータ系の学校に通っていた彼は、若くして機械に精通しており、また彼の父がかなりのレコード・コレクターということもあってか、ヘッズであった彼は必然的にビートメイキングに熱中していく。これまでに影響を受けたアーティストはJ Dilla、Nujabesの2本柱。長らく好んで聞いてきたアーティストはMadlib、Radiohead、Tom Waits、MF DOOM。バッチリ私の好きなアーティストの面々であり、彼の楽曲を初めて聞いた私が衝撃を覚えたのも無理はない。そして、J Dillaが世のヘッズに与えた影響というものは、とてつもない事を改めて痛感する。


”映画鑑賞から音楽製作にインスピレーションを”

音楽制作とプライベートのバランスが良い音楽を作るのに最適だと語る彼だが、スタジオで楽曲制作をしている時間以外は、映画鑑賞を楽しむライフスタイルだそうだ。そして彼は、作品で使われているサウンドトラックにアンテナを張り巡らし、そこで感じたインスピレーションを元に新たな音楽を作り上げていくのだという。彼が言う”バランス”とはONとOFFが互いに刺激を与える、質の高い均衡を保つことであり、これは彼だけでなく、これまでに様々なシーンを築いてきたレジェンドが口を揃えて言っていたセリフであったのをふと思い出す。


また、Vanillaと言うアーティストを語る上で欠かせないのが、彼の持つサンプリングセンス。言わずと知れたCool&The Gangsの代表曲「Summer Madness」は、これまでに数多の音楽家にサンプリングやカバーされた有名曲であるが、Vanillaが手掛けた「Summer」は彼のサンプリングセンスを伝えるのに丁度良い。どこか心地の良い、哀愁漂わせる一曲に仕上がった「Summer」を、Youtubeで500万ビュー数を超えるElFamosoDemonの映像と共に是非一度この機会に体感して頂きたい。2人のアーティストの感性が見事に織り交ざり、右脳に響く光沢のある作品に仕上がっている。


名声に左右されることなく、自身の音楽をライフスタイルと共に上手く成長させていくUKの音楽愛好家Vanilla。近頃ではこういったスタンスで音楽活動をするアーティストが増えてきているように感じる。そして彼らのように、自身のキャパシティで音楽を楽しみながらも、1人のアーティストとして確立していくスタンスというのは現代シーンならではの新しいスタンスと言えるのかもしれない。ここ数年新作を発表していない彼だが、これもまた彼らしく、私たちを密かに楽しませている要因と素直に受け入れることが出来、彼の新しい動きがあるまで気長に待てばいいやと、今日も気付けばドライブ中に彼の心地の良い音楽をピックアップしているのであった。

Writer / g.g

we are one. peace.